アンプ漫遊記 第二弾!永遠のロックサウンド!Marshall JCM900 - TC楽器 - TCGAKKI

マーシャル史上最高のベストセールスを誇ったJCM800の後を受け、90年代マーシャルの顔として登場したモデル。多くのスタジオやライブハウスなどで導入され、現在もまだまだ現役で使用されています。近年ではJCM800以上に普及していたため実際に触れられたことのある方も多いかと思います。

モダンマーシャル、ひいてはモダンハイゲインアンプの先駆けとなったモデルである反面「最近のマーシャルはね…」と往年のマーシャルファンから疑問を投げかけられたモデルでもあります。

しかしながら今日改めて接してみると、そのサウンドの先鋭さ、使い勝手の良さ、タフさ、コストパフォーマンスなど多くの魅力に彩られたモデルであることを再確認させられます。無論、近年のハイゲインモデルに充分対抗し得る鋭いドライブエッジは、独自の存在感を印象づける強力なキャラクター。さすが90年代以降のマーシャルを代表する「顔」であり続けた実績を物語っています。

登場背景

 JCM900が発表されたのは1990年1月のNAMMショーにおいて。80年代に渡って世界で記録的なセールスとなったJCM800の後を受け、90年代の代名詞となるべくこの名称が与えられました。折しも、時代はハードロックや、それ以上にハードな音を求めるヘヴィメタルと呼ばれる音楽の全盛期。メタリカがグラミー賞に登場したのもこの年です。そのシーンの誰もが既存のアンプのゲインでは飽きたらず、さらなるハイゲインモデルを求めていました。

 それまでマーシャルはJCM800で世界的成功を収めていましたが、80年代後半になると多くのプレイヤーがノーマルなJCM800のゲインでは物足りなくなっていました。このためマーシャル改造のムーヴメントが起こり、それがラインホルト・ボグナーやマイク・ソルダーノなど多くの有能なアンプビルダーを輩出したことは以前にも述べましたが、その反面、誰もがそこまで高度な技術を持っているとは限らず、粗悪な改造マーシャルも氾濫し始めていました。ゲインと共にノイズまでも上がってしまったり、音的に酷いものだったりと、あるいはアンプ自体の寿命を縮めてしまうものもあったようです。こうした状況の中、ハイゲインモデルの必要性を実感したジム・マーシャルはまず87年にマーシャル社設立25周年としてJubileeシリーズを発表。これが当時、「最も歪むマーシャル」と表され、Bon Joviのリッチー・サンボラやGuns n' Rosesのスラッシュなど当時のトップアーティスト達に好評を博します。Jubileeシリーズは25周年記念の1年限定モデルのはずが、当時寄せられた多大なるニーズのため89年まで生産が続きます。そして90年代の到来を迎えるにあたり、マーシャルがさらなる新時代の音として新たにデザインしていたハイゲインアンプを発表。それがJCM900なのです。しかも、この時既にJubileeに続く30周年記念モデルの構想も練られていました。

 

さあ、貴方にフィットするJCM900は?

 JCM800と同じく、900も多くのヴァリエーションが存在しました。しかしここでも大きく分けてパターンは二つ。High Gain Dual Reverb(大雑把に言って2チャンネル)とHigh Gain Master Volume(乱暴に言って1チャンネル)のモデルです。それぞれに50Wと100W、そしてヘッドタイプとコンボタイプが作られました。
 High Gain Dual Reverbモデルはその名の通り、フットスイッチで切り替え可能な二つのゲインと二つのマスターを持つモデルで、それぞれにリヴァーブも設定できます。すなわちクリーンとドライブの切り替えが可能で、例えばクリーンはリヴァーブ深め、ドライブはリヴァーブ浅め(あるいはOff)という設定もできます。使い勝手に優れ、業務用などで最も導入されたのがこのモデル。練習スタジオなどで見かけるJCM900はだいたいこれです。
 High Gain Master Volumeモデルの方も二つのゲインと二つのマスターヴォリュームを搭載していますが、スイッチで切り替え可能なのはマスターだけ。ソロでドカ~ン!と大きな音で…という風に出来ますが、クリーンとドライブの切り替えのようには使用できません。歪ませたら歪みっぱなしで、クリーンにしたければゲインの設定を変えるしかありません。(しかしこのソロモードのようなマスター切り替えは、現在から見るとなかなかモダンで、Kochなど最近のモデルでは搭載されています。)二つのゲインは一つのチャンネルに同時に効く二段階ゲインで、かなりハードな歪みを作り出すことが可能。早い話、歪み専用機と言って良いでしょう。

歪みまくりますように~?ゲインの目盛りは20まで!

 両者に共通した機能としてはレベル付きのエフェクトループやダイレクトアウト、3極/5極を切り替えるHi/Loスイッチ、それに初めて搭載されたパワーチューブの保護回路となるOUTPUT VALVE FUSEがあります。これは万一、いずれかの真空管にトラブルが発生した場合、正常に動作している真空管のヒューズを飛ばすことで過負荷を避け、他の真空管までもがダメージを受けてしまうのを防ぐ役割があります。


モデルナンバーの見方
XXXX(4桁の数字)
4桁目:モデルを示す。4=High Gain Dual Reverb/2=High Gain Master Volume
3桁目:出力を示す。1=100W/5=50W
1桁目:スピーカーの本数を示す。0=スピーカー0本のためヘッド。

例:4102 4=High Gain Dual Reverb、1=100W、2=スピーカー2本。このためチャンネル切り替え可能なタイプで100W、スピーカー2本を搭載したコンボアンプだとわかります。

SLXって何?

 2100SLXや2500SLXなど「SLX」の表記がついたモデルも良く見受けられます。これは通常の2100や2500とはどうちがうのでしょう?

 JCM900が発表された翌年の1991年、アメリカではその後のシーンを決定づけるとも言えるモンスターアンプが登場します。Mesa/BoogieのDual RectifierとPeaveyの5150。歴史を変えたとも言える二大ハイゲインがこの年同時に発売されます。これに焦ったのかどうかはわかりませんが、マーシャルも対抗策かハイゲイン勝負か1993年、それまでのHigh Gain Master Volumeモデルのプリアンプ段にプリ管をさらに1本増設。プラス2段の増幅段を持ってさらにハイゲインな仕様となりました。そしてSuper Lead X-tra Gainを意味するSLXが表記され、ヘヴィドライブマシーンとしての色彩をより強めていったのです。

それ以前のモデルのプリ管は3本

SLXはプリ管が4本になりました!

またこれと期を同じくして、マーシャルの全てのモデルにおいて使用されていたパワー管がEL34から5881へと変更されます。これはこの時期マーシャルが主に使用していたロシアの真空管メーカーであるソブテックの安定供給不足によるものとも言われますが、この変更により、さらにクリアでソリッドな「バキバキ」としたトーンとなり、これが90年代のマーシャルの代表的なサウンドとなって行きました。この仕様はマーシャルが同じくロシアの真空管メーカー、スヴェトラーナを導入する98年まで続き、98年以降ほとんどのモデルがEL34仕様に戻ります。

 

EL34 と 5881

 上述と重なりますが、93年頃からマーシャル真空管アンプのほとんどのモデルにおいてパワーチューブがEL34から5881へと切り替わります。JCM900はもちろんのこと、ヴィンテージリイシューの1959SLPや1987Xにおいても5881が使用され、これにより一部のコアなファンの落胆があったのも事実です。「最近のマーシャルは~」という否定的な慣用句はこの時期に発生したものだという感もあります。
 音の特性として5881は6L6の高信頼管と呼ばれ、比較的歪みにくくクリアなトーンで、小音量時から比較的マイルドでヴォリュームを上げても急激なサウンドの変化が起こりにくいチューブです。このためドライなクリーンサウンドやソリッドなディストーションサウンドには適しており、歴史的にはベースマンなどのフェンダーアンプでおなじみのチューブ。Mesa/Boogieの多くのモデルやPeaveyの5150でも使用されており、アメリカンサウンドを代表するチューブと言うことが出来るでしょう。
 一方、EL34は小音量時には歯切れが鋭く噛みつくようなトーンで、音量が上がってクリップし始めると急激にトーンが変化し、ミドル寄りの太く粘りのあるサウンドに変貌します。それまでのマーシャルの歴史の特に華やかな部分を彩ったチューブだったことに加え、HiwattやOrangeなどイギリスを代表するアンプメーカーも使用していたこともあって、特に日本では「ブリティッシュサウンドはEL34」と言った神話めいたものもありました。
 そんな背中でのマーシャルの5881への変更であったため、特に熱心なブリティッシュロックファンなどから批判的な声が上がったのは確かに共感できる部分もあり、当時リアルタイムにおいて5881仕様のヴィンテージリイシューしか販売されていないことに対し、少々寂しい気分があったことも記憶しています。サウンド面よりもむしろ精神的な部分においてでしたが。しかし幸いというか、98年以降のモデルはほとんど全てにEL34が戻り、ヴィンテージシリーズはもちろん、JCM900も再びEL34仕様となります。これはその後のJCM2000以降、現在にも引き継がれています。
 そんな現代だから思うのかも知れませんが、5881仕様のJCM900を見かけると逆に少々懐かしかったり。ハイゲインアンプのらしさが逆に強調されていて、ある意味「よりJCM900らしいサウンド」に聴こえたりもします。少々話はそれますが5881仕様の1959SLPなども今改めて音を聴いてみると、それはそれで魅力的。当時はそれでがっかりしていたことが逆に微笑ましく思えたりもします。
 そんな訳もあって5881とEL34の両バージョンが存在するのがJCM900の面白いところ。初期(~93年頃まで)と近年(98年後半~)がEL34でその間が5881です。スタジオなどで見かけたら「これはどっちだろう?」と思いをめぐらせて見るのもJCM900の楽しみ方のひとつかも知れません。

 

5881期のモデルにはトップに5881使用を示すラベルが貼られています。

 

JCM900ファミリー?

実は同時に開発されていたらしい30周年記念モデル6100

 JCM900シリーズではありませんが、JCM900と深い関わりがあって忘れてはならないのがこのモデル。青のレザーが印象的な6100です。これはクリーン/クランチ/リードから成るマーシャル初の3チャンネル。MIDIも搭載され世界に先駆けたモデルなのです。登場はJCM900より2年ほど後の、マーシャル社設立30周年となる1992年のこと。今でこそ3チャンネルは当たり前のようですが、当時としては画期的なことでした。
 実はこのモデル、開発自体はJCM900とほぼ同時期だったとか。しかしながらJCM900シリーズを世界的にリリースするに当たり、JCM900各モデルと平行しての生産が難しかったこともあってか、アニヴァーサリーイヤーの92年まで温存されていたそうです。前述した通り、時代は折しもハイゲインブームの巻き起こる最中。JCM900リリース後の他ブランドの動きを見据えての狙いもあったのかも知れません。


 このような流れの中、登場した6100ですが完全独立の3チャンネル仕様で、世界でもかなり早い段階で製造された3チャンネルモデルと言えます。チャンネル1は2つのモードを持つクリーンで、マーシャルらしいクリーンとフェンダーを意識したクリーントーンがミッドシフト及びブライトのコントロールによってセレクトできます。チャンネル2はリズムサウンドとも言うべきチャンネルで、JTM45を彷彿とさせるヴィンテージ風、それまでの代表的サウンドであるJCM800風、そしてJCM900風がチョイスできます。さらにチャンネル3ではそれまでにない、マーシャル史上最強とも言うべきハイゲインサウンド。このサウンドがJCM900をも進化させ、先述したSLXの元になったものだとも考えられます。こうして伝統的トーンから最新鋭サウンドまで網羅した6100は多くのミュージシャンたちに驚かせると共に愛用され、ジョー・サトリアー二やゲイリー・ムーアの使用でも知られ、「青いマーシャル」として親しまれました。
 アニヴァーサリーの初回限定として作られたロットは、完全ゴールドメッキ仕様で、シャーシはもちろん、チューブカバーやチューブスプリングまでゴールドというこだわりよう。キャビネットのフロントロゴもゴールドパネルが使用されました。この仕様は世界で500台(コンボは800台)のみ作られ、6100LEという名称で呼ばれています。それ以降は青のレザー以外は通常のシャーシのものがアニヴァーサリーイヤーの終わりまで、そして翌年からは黒のレザーで90年代終盤まで生産されました。

 

改めてJCM900の魅力とは

 20世紀も終盤に近づいた1999年、21世紀を見据えたニューモデルとしてJCM2000シリーズがリリースされました。今でもフラッグシップ的存在とも言える実力を持ったJCM2000は若いプレーヤーから往年のベテランまでをも虜にし、JCM900の時代は終わったかに見えました。確かに、JCM2000が普及していくに連れ、SLXなどJCM900の多くのモデルはだんだんと姿を消していきました。しかしながらJCM900の中でも代表的存在だったHigh Gain Dual Reverbシリーズ4100だけは未だに生産され続けているのです。登場した1990年から仕様変更もなしに世紀の移り変わりを経て18年間。音楽シーンが多彩に変化して来た中で、異例のロングセールスと言えるでしょう。この理由はマーシャルのオフィシャルの言葉を借りれば「音像が絶対的に太く、ヴィンテージのDNAを隠し持っている」からだということですが、この表現に偽りはないでしょう。「ディストーション」アンプはその後無数に存在しましたが、ナチュラルドライブがそのままハイゲインになったようなトーン。言うなれば世界で最もハードな「オーバードライブ」アンプというのがJCM900の特徴なのかも知れません。


 付け加えるならばそのシンプルさや、使いやすさ、初めて手にした時のわかりやすさなども大きな魅力です。また発熱も決して多い方ではなく、音決めをしてから長時間使用したとしても音の軸がぶれにくいこと、トラブルが少ないことなども特に多くのエンジニアサイドから信頼されて来た理由だと思います。さらに筆者の個人的見解を加えさせて頂くとすると、ラックタイプのプリアンプを使用してリターンを介して接続する上では最も信頼できるモデルであると言うこと。JCM900の置かれた環境であればひとまず安心、といった思いがあります。
 このように高い信頼性を持つJCM900。決して純然たるヴィンテージサウンドではなく、また狂気のモダンヘヴィゲインでもありませんが、20年近くに渡りシーンを確実に支えて来た、陰の実力者的存在であることは疑いのないことでしょう。「シンプル」「タフ」「ハード」…ロックミュージックに必要な言葉は全て、JCM900の中にある。そう思えてなりません。



コメントを残す

すべてのコメントは公開前にモデレートされます