工房直撃!!B,W&R モンスターレプリカ! - TC楽器 - TCGAKKI





序章~時代背景

 

 ハードロックシーンの高まりと共に、アンサンブルにおけるエレクトリックギターの役割が次第にきらびやかなものになっていった70年代後半から80年代初頭にかけて、先鋭的なギタープレイヤーのニーズを完全に充たすギターはまだなかなかありませんでした。無論それまでの音楽シーンの中枢を支えていた存在としてFenderとGibsonがありましたが、創始者レオ・フェンダーが去って久しいFenderは過去のデザインを繰り返すことに終始し、また度重なるコストダウンにより年々その質を低下させている状況でした。もう一方のGibson社も、レスポール以降の新世代型ギターという点においてはデザインに精彩を欠き、特にこの時代においては奇妙なモデルを乱発するだけに等しい存在となりつつありました。

 そんな混沌とした時代の中、エレクトリックギターの父レオ・フェンダーの遺伝子を受け継ぐに等しいと言える人物が二人登場します。ウェイン・シャーベルとグローヴァー・ジャクソンです。ウェイン・シャーベルこそ、Fenderストラトキャスターというギターが持っていた自由なスピリットを受け継ぎ、そして初めて昇華させた人物と言えるでしょう。当時のFender社がただ保守的に受け継ぐしかなかったボルトオンギターを、その利点を生かし自由にコンポーネントするという新たな次元へと進化させたのです。無論、コンポーネントという概念はエリック・クラプトンの時代からありましたが、クラプトンが目指していたのがあくまで「ストラトキャスター」であったのに対し、ウェイン・シャーベルが求めたのはより自由で先鋭的なギターでした。そしてそれにさらなる独創性を加味し、ブランドとして完成させたのがグローヴァー・ジャクソンです。こうした彼らの功績は、エレクトリックギターの進化というものに無限の可能性を指し示し、多くのデザイナーに希望を与えました。その後ジェームス・タイラーやジョン・サーなど多くの優秀なギターデザイナーが登場しますが、シャーベル/ジャクソンのデザインの影響を全く受けていない人物は一人としていないでしょう。

グローヴァー・ジャクソン氏の功績は他にもいろいろありますが、ランディー・ローズの話が長くなってしまいますので、それはまた別の機会に譲るとします。今回の主役はもちろん別。そして伝説の愛機の生まれる土壌となったウェイン・シャーベルのショップです。もともと塗装関係の仕事をしていたウェイン・シャーベルは友人らのために、ギターにペイントを施したりリフィニッシュをするなどの作業を行っていました。そんな彼の仕事は評判を呼び、多くの依頼が持ち込まれるようになります。やがて自宅のガレージを改造した作業場で本格的にそれを行うようになった頃にはFender社からの下請けの依頼も入ることもありました。そして1974年、彼はカリフォルニアに自分のリペアショップをオープンします。そこで彼は塗装やリペアの他、Fenderなどのボディーやネック、パーツなどの販売を行う傍ら、それらパーツを組み上げてギターを制作したりしていました。ウェイン・シャーベルの店は評判を集め、当時のFender社では対応しきれなくなっていた修理や改造などの依頼も寄せられました。特にプロミュージシャンからの高度なカスタマイズの依頼などは彼の店に回されることの方が多かったと言われています。例えば、当時は主流であったストラトキャスターのシングルコイル特有のノイズに悩むミュージシャンが多く、幾多の塗装技術に長けたウェインはストラトのキャビティー内に導電塗料によるシールディングを施すことでそれを軽減させることも可能でした。下請け的存在であったがためにFenderの社内で受け継がれたノウハウによらず、独自の手法を用いていたことがさらにシャーベルとしての独創性を強めていったように思われます。

 そんな彼のショップを訪れるミュージシャンの数は次第に増え、当時Deep Purpleに加入したばかりのトミー・ボーリンもその一人だったと伝えられています。今でいうところの「カスタムショップ」的存在ともいえるのでしょうか?しかし昨今のFender Custom Shopのマスタービルダーの経歴を見てもシャーベル/ジャクソン出身者が多いことから、当時の若い才能が如何にここに集まっていたか伺い知ることができます。それは60年代のロンドンでジム・マーシャルのショップにジミー・ペイジやジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリクスなどが通い、そんな匆々たる顧客たちとのコミュニケーションがやがてマーシャルを世界的なアンプブランドへと押し上げていった、そんな経緯にも似ているかも知れません。未来への無限の可能性が集結していた場所、それがシャーベルのショップだったのでしょう。そんなシャーベルショップに親しく出入りしていた若者が、ある50ドルのネックと80ドルのボディを買っていきました。彼は当時サンセット・ストリップのクラブシーンでは話題のギタープレイヤーでした。そしてそのネックとボディで組まれたギターが後に伝説を引き起こすのです。

 そしてそれからはご承知の通り。斬新で自由なペイント、新進気鋭のフロイドローズなど刻々と進化していくこのギターが世界を震撼させ、エレクトリックギターの持つ自由な発展性が後の時代に希望を与えました。「ギターはもっと自由であっていい」トラディショナルなスタイルから脱却し、ギターを自在にカスタマイズするという手法はこのモデルによって世界に根付けられたといっても過言ではないでしょう。それは固有の概念の概念にとらわれない、エレクトリックギターがエレクトリックギターとしてのアイデンティティーを確立した瞬間でもありました。今、ここに蘇るB,W&R各モデルは単なる外装のみのレプリカにあらず、そんなスピリットをこそ再現した入魂のモデルです。単なるマニアックにとどまらず、自由かつ合理的なアイデンティティーを受け継いだカスタムモデル。以下、工房取材よりそんな製作現場に込められた思いとビルダー氏のお人柄をお伝えすることができるでしょう。

 

さっそく製作現場にお邪魔しました!

 

お邪魔しま~す。何やら早くも面白そうなネックやらパーツやらあってワクワクですね。突然の訪問にも関わらず、私を笑顔で迎えてくれたビルダー小田桐氏。LAに渡り10年近くもギターに携わってきたという経歴とは裏腹に、時にシャイとも思えるほど穏やかで温かい方です。ベテランビルダーに良くある近付き難い雰囲気はかけらもなく、お話を始めてほんの数分足らずであっという間に打ち解けて友達同士のようになってしまいました。
 それではさっそく実物を見せて頂きながらいろいろと伺っていきましょう。まずはストラトヘッドのこのモデルから。

 手に取った瞬間は、「これヤバい!何かある!」というのが第一印象でした。それは高価なヴィンテージギターを手にした時の緊張感とはまた違って、何かスリリングな気分というのか…。そんな気分を抱きつつ小田桐氏にいろいろと訊いてみました。

 

 ではまず後ろのピックアップから見ていきたいんですが、これはダンカンの59とのことですね。なるほど、とも思いつつ、でもなんで?とも思うんですが(笑)

小田桐氏:「オリジナルフランケンは、 61年のGibson ES-335から外された物だというのが定説です。 しかし、年代ごとに写真を見ると違うピックアップを載せているのもあり、中にはヴィンテージの PAFと思われるのもあります。本人は PAFへのこだわりは相当強かったと思われます。ダンカン59は、オリジナルの特徴がよく出ていると思います。経年変化による枯れた感じはさすがに難しいようですが、パワーも程よく抑えられており、クリーンな感じも良いと思います。」

 小田桐氏はヴィンテージギターのバイヤーをされていたこともあって、そのあたりはお詳しいんですよね?

「私が知っている範囲ですが、オリジナル PAFはクリーンでトレブルが程よく効いたちょっと枯れた音で、彼はそれをドライヴさせたマーシャルであのサウンドを出していたと思います。」

 でも彼のPUには諸説あって、ディマジオだという話とか、古いジャクソンではないかとか、昔オジーオズボーンバンドに加入したジョー・ホームズが全部ストラトにJ-80つけてるのは誰の影響か?とかいろんな話を聞くんですが…。

「いろいろな説がありますが、私は否定も肯定もしません。彼は音に貪欲なはずなので、試すだけなら相当な数を試しているのではないでしょうか?」

 そうか…確かに。でも59ってヴィンテージ系のハムバッカーとしては代名詞のように良くで出てきますが、やはりそれだけのものなんですね。

「何故59が代名詞的存在なのか考えてみてください。ヴィンテージ系のサウンドを狙ったモデルでは当たり前のように使われているPUですが、それだけ多くのギターで使用されているということは如何にピュアでストレートな特性を持っているかという証でもあります。」

 そういえばインペリテリも59を使ってましたね。理想はPAFと言いながら。

「インペリテリも研究はかなりしていると思いますよ。ピッキングで音を作っていくタイプですし、そんなニュアンスをクリアに出すためにPAF的なトーンと、ほどほどの出力を理想とするならば、やはり59になるのかなと。」

 なるほど。そのほどほどさが難しいんですが(笑)、その辺を一番受け継いでいるのが59ということですね。ではさきほど彼はドライブさせたマーシャルであの音をと仰っていましたが、このギターでもそんな感じで?

「ええ、そんな訳でピックアップがダンカン 59なので、どんなアンプにもマッチすると思いますが、 Peaveyのアンプなら、EQのミドルを下げ、ベースとトレブルを上げ気味にし、歪みを好みに調整すると、サミー以降の音に近づけると思います。マーシャルを使うなら、ミドルを上げて ハイをロウを抑え気味身にするといい感じの音になります。歪みは、軽いほうが初期のサウンドに近いと思われますし、近年はより歪みが強くなっていると思われます。」

ホゼとの思い出

 

 小田桐氏はやはりマーシャルがお好きなんですよね?当たり前のこと訊くなって怒られそうですが…(笑)

「私はマーシャルの音は好きです。しかし同じ環境で音が出せるのはありえないので、どうしてもマスターヴォリュームが付いているタイプかアッテネ-ターを使うしかありません。本当はヴィンテージの100W なんかをいつでも鳴らせたら、こんなに幸せなことはないんでしょうけど、持っているだけでほとんど使うことはありません。ずーっとマーシャルに憧れているんだと思います。」

小田桐氏ご自身はどんなマーシャルを?

「1990年代の中ごろ、私は LAに住んでおり、 LAで頑張っている日本人ギタリストの KUMAと仲良くさせてもらっていました。私は当時ヴィンテージギターのバイヤーをしており、全米のヴィンテージショップと交流がありいろいろな人から探し物を頼まれたりしましたが、ある日KUMAから70年代のマーシャル100Wヘッドが欲しいといわれ見つけました。それが届くと私も一緒にホゼのところにアンプの改造を頼みに行こうということになり、私は日本から持ってきていた JCM 800 (100V 仕様)を持ってホゼのところへ行ったのでした。」

 な…なんと!ホゼ改造!?しかも会ったことあるなんて!!握手してください!(取り乱す筆者)

「初めて会ったホゼはそのときすでにかなりのお年をめされており、いい感じのおじいさんでした。自宅のガレージに建てられた小さな工場には、壁のようにマーシャルヘッドが積み上げられており、1つずつ顧客名が貼られていました。その名前は、メタリカ、スティーヴヴァイ、ジョーサトリアーニなど、そうそうたる名前がずらりと並んでいました。 KUMAともう一人私の友人がいてホゼと話していたのですが、ホゼが設計したアンプを商品化しようという話があったそうですが、結局流れてしまったそうです。彼とホゼの共同開発のギターアンプなんて、ファンからすると夢のような話が本当にあったんですね。しかし、実現されなかったのは残念です。

 私たちが改造をお願いして、数週間後、人からホゼが亡くなったと聞き、私たちも頼んだアンプがどうなったか調べたのですが、結局なくなってしまいました。」

 そうか~残念でしたね。でも夢は夢のまま…あの音は胸の奥でだけ鳴っていればいいのかな、なんてね(笑)

「私はホゼに2度ほどお会いできましたが、本当に信頼されている腕のいい職人という印象は今でも変わりません。」

 それだけでもすばらしいご体験でしたね。
うらやましすぎです。
 では、気を取り直して…今度はフロントピックアップについてお伺いしましょう。これは本人のは音が出ないとかで使ってないのは確かみたいだからどうでもいいといえばどうでもいいんですが。

「フランケンのフロントピックアップに関して、なぞが多いのは皆さんご承知でしょう。 本家のブランドから発売されたフランケンレプリカが発表されたとき、色んなぞが解明されましたが、フロントPUはなぞのままです。 
1979年にはすでに付いていたので、フェンダーかディマジオかダンカンあたりのものだと思いますが、リード線が白黒逆についていることから、ダンカンではないかと思われます。ボビンの材質も諸説ありますが、私が思うにあの赤は本人が吹いたものではないかと思います。レプリカについているのはやはりあまり似ていないというか、別のコンセプトやこだわりで作られたもので、本物をレプリカしたとは思えないです。」

 これについてるのは何ですか?

「私はこのダミーのピックアップは、逆に何のこだわりもなく 通常はフェンダー Jの物に赤いプレートを貼っています。」

 何のこだわりもなく、って所が潔くていいですね。そうですよね。音出ないんだから。でもこれって本人のはリネンなんとかいう素材だとかそうじゃないとか…。

「これですか?」

(と言って引き出しから別のPUを取り出す小田桐氏)

 そうそう!これこれ!写真で見たやつと同じじゃないですかっ!やっぱり持ってるんだな~。

「これは私の私物ですが、リネンフェノールのような古い材質のものに赤を吹いてます。」

 さすが、やっぱり持ってるんだな~。でもどうぜならこれを付ければドンズバなのに。

「まあこれは私の趣味で再現してみただけで、同じものがいくつも手に入る訳ではないので。ビルダーとしてはやはりお客様からも同じものがもう一本欲しいと言われた時にご提供できるものでないとね。そりゃ肝心のサウンドに関わることだったらなんとしてもどうにかしますが、音の出ない部分ですからね。そうなるとやはり全ての個体に対してフェアであった方が。」

 な~るほどね~。自分だったら喜んでつけちゃうけど、やっぱり趣味でやってるのとはとは違う…(笑)。

 では次、このコイン。これはフロイドを固定するためだとか、ボディの亀裂を食い止めるためだとかいろいろ言われてるようですが。

「この25セントコインは、とあるコンサート会場の楽屋にて彼はギター雑誌のインタヴューを受けることになっており、その前からフランケンのブリッジのセッティングに手間取っていたそうです。 そのインタヴュアーが着くなり、 25セントコインを貸してくれる?っとなったそうです。その場でドリルで穴を開け、ボディーにつけたまま現在に至るそうです。これはフロイドのブリッジを少し浮かせて固定したかったようです。当時はまだスタッドの位置を変えておらず、取り付けにはかなり無理があったと思われます。そのころのサドルはすべて一番前で固定されていました。」

 なるほど!フロイドを動かしたからこの位置!どうりで変な位置にあるなと思ってたんです。ところでその25セント返したんでしょうかね~。まあ我々がストラップを固定するのに5円玉を借りるのと似たような感覚なのかな。

 はいでは次です。センターPUの位置にあるスイッチ。これも適当というか本人が配線がわからなくてそのまま、とか言う噂のやつですが。

「センターPUキャヴィティーのダミーのセレクターSWと配線は、可能な限り似せるという以外は 特にこだわっていません。」

 はい。あっさりがいいです。では次(笑)。背面に貼ってある反射板みたいなやつですが、これはステージで照明をきらきらさせるのに使うんですね?

「リフレクターと呼ばれる部品です。でも良く見てください。ここまで同じものはなかなかないですよ。」

 確かにそっくりだ。自転車とかによくついてる部品ですよね。

「そうですが、でも例えばこの赤いリフレクター、八つに分割されているんですが、これと同じものは日本では手に入らないはずです。この部品だけでも特別に海外から取り寄せています。」

 ひえっ…そうなんだ。てっきり自転車屋さんとかで売ってるものかと思ってた。でもそこら辺で売ってるのとどう違うんですか。だいたい音に関係ない部分はあまりこだわらないはずでは…。

「ここは大事です。何たって光を放つ部分ですから!」

 そ…そうなんだ。(至って真面目な小田桐氏にたじろぎつつ)そうですよね…光り方が違うんですね。

「輝きを放つのがエレキギターですから。ここは本物の輝きを再現しなくちゃだめなんです。」

 

 

フランケンの謎に迫る

 

 で…では再び気を取り直して、今度はネックの方を見ていきましょう。指板はフェンダーよりフラットな印象ですね。

「指板は300Rになっております。これは本人のというより、一般的な弾きやすさを重視したもので、フラットすぎると好みに合わないとか、アールがきついのはいやだとか言う中間のカーブだと思います。 フレットはミディアムジャンボです。エッジの処理には時間をかけ、丁寧に仕上げています。」

 ネックも握りやすい…。

「ネックのグリップはスタンダードな C シェイプです。実物は最初のラージヘッド、スモールヘッドはワーモス製の貼りメイプルで、薄いグリップだと思われますが、その次のスモールヘッド1 P22Fは、クレイマー製と思われ、ロゴを消しています。私もストラトヘッドのクレイマーペイサーを所有しており、グリップはスタンダードな Cシェイプになっています。 その後バナナヘッドのネックからまた仕様が変わることになりますが、そこから非対称のグリップになったと思われます。」

 ペグはシャーラー製なんですね。

「彼はデビュー当時から一貫してペグはシャーラーが一番だと言って来ました。それは今でも変わらないようです。フランケンにクレイマーネックを付けていたころ、特殊な形のペグをつけていたのですが、これもクレイマーが使っていたシャーラーでした。 バナナヘッドのモデルではイレギュラーでゴトー製を使っていましたが、その後ミュージックマンでまたシャーラーに戻りました。」

 でもこれ、写真に載ってる本物の形とちょっと違くないですか?

「これですか」

(そう言って工房の奥から何やらハードケースを取り出してくる小田桐氏。それを開けて見ると…?) わあっ!

「Kramerの初期ペイサーAシリアルです。本人のについてるのはこれでしょうね。」

やっぱり持ってるんだ~。

「これはゴトー製ですね。そしてこれが…」

(さらに別のギターを取り出してくる小田桐氏)うわ~い!

「こちらはCシリアルのペイサーです。このペグはシャーラー製で、ネジ位置がゴトーのようになっています。」

 こうやって当時の実物を見せられつつだとたまらないですね。 なるほどね~。そんな歴史の流れがあり、だから細部に至るまでちゃんとこだわりがあって、あと逆に、こだわってないように見える部分もちゃんとその理由があるんですね。そんなネックとボディ、組み込むにあたっては何かありますか?

「組み込みに関して、フロイドローズをボディーに直付けするので、弦高が高くなりがちです。それを避けるためにフロイドの裏側の一部分を削り、イタバネなども取り外します。フロイドのナットもできるだけ低く取り付けます。ネックはまっすぐか逆ゾリ気味にして、シムは欠かせないと思います。」

 シム?シムを使ってるんだ~。

「え?」

 いや、シムってなんかコンポーネント系のギターだとあまり使わないじゃないですか。それよりポケット調整した方が良いとか。ほらボディとネックが密着して。そういうことはしないんですか?

「 もちろんネックポケットを加工して、シムを入れないようにする事もできますが、それではフランケンではない気もします。 本人のフランケンはヘヴィのピックをシム代わりに入れているのですが、それでもギターの鳴りは良いそうです。フェンダーでもシムをかませるのはきわめて普通の事ですし」

フランケンではない!今の言葉グッときました。確かに、ネックとか何度も差し替えたりそんな歴史を重ねて来たギターだからこそ、そういうフレキシブルさみたいなものがあるんですよね。そうか、そこがポイントなわけだ。ほら、良くあるじゃないですか。特殊なビルダーが組んだからネジ一本外すだけで音が変わってしまう…みたいなすごいギター。そういうのとは対極にあるんですね~。

「ギターの鳴りは確かにネックとボディのジョイントが重要ですが、シムを入れてあるからダメかどうかは体感してもらうしかありません。」

 このギターの良さは確かに体感しました。そうですよね。確かにどんなに組み込みの精度の良いギターでも鳴らないものは鳴らないし、昔のフェンダーのストラトとか、ジョイントがアバウトでシムでセッティングしてあっても凄い鳴り方をするものがあることは何度も体験してるのに…先入観は良くないですね。反省します…。でも実際シムってなんかネガティヴなイメージを持つ人って自分だけじゃない気もする…。

「理論上はシムはダメという人に対して、理論でシムを肯定するのは難しいです。でも先入観というか、そういう部分で先に判断されてしまうのは残念ですよね。シムかポケット調整か、どちらも可能な上で私はこのギターに対してはシムが正解だろうと選択しているわけですから。」

 反証の方が難しいのは判ります。宇宙人を信じる人に対して、宇宙人がいないことを証明することの方が不可能に近いみたいな。要は細かいことこだわらずに弾いてみてくださいってことですよね。

「これだけ細かいとここだわったギター作っておいてなんなんですが …(笑)」

 確かに(笑)。でもそのこだわりというか、こだわらないことにこだわるという部分なのか、なんか小田桐さんのツボがわかってきました。上手く言えないですけど(笑)。で、このギターのシムもヘヴィピックが入っているんですか?

「私は厚紙を使ってますが、その時々で厚みは異なるので特にこれという風に決めてはいません。私の師匠も、紙だって元々は木だから相性は悪くは無いんだって言っておりました。」

 

 

バナナヘッドとフロイドローズ

 

 弦は何を張ったらいでしょう?

「特に弦を指定しませんが、通常アーニーボールの09~42を張っています。本人は 09~40か42のセットで、ピックは前はミディアムでしたが最近はヘヴィーを使っているようです。

 他に必要なものってあります?

「コピーをするのに、 MXRフェイズ90は欠かせないと思います。つまみは 0~10時くらいまでで、ヴィンテージの方がかかりが弱くてより似た音がするようです。 私は MXR 6バンドEQと、フェイズ90とフランジャーをマーシャルに通すのが好きです。歪み系は使いません。ディレイは私はボスを使っていますが気に入ってません。」

 本家はSDE3000でしたっけ?あとリヴァーブがPCM70?自分も昔真似しようとしてH3000D/SX買いました。でもプログラムチェンジに時間がかかって、ライブで使うには本家みたいにもう一台と4x4がいるって言われて断念。PCM70も買えなくて残響系はロックトロンのREPLIFEX一台で我慢してた。っていうかREPLIFEXはかなり好きでまだ使ってるんだけど…って私のことはどうでもいいか。

「そうそう、あとあの頃と言えばパルマーのPDI-03ですよね。あれでフルアップしたマーシャルをラインレベルに落っことして、ドライとウェットに分けてH&HのMOSFET800で出すという、凄いシステムだったけどみんな真似しましたよね。」

 お金がすんごいかかりましたけど…(以下略)

 と、機材話と貧乏話にすっかり花が咲き、本題からずれまくって楽しい時間が過ぎました。ってまだ終わりじゃない。今日はもう一本、バナナヘッドのクレイマータイプのギターのお話も聞かなきゃいけないんです。

いつ頃からこのモデルになったんですか?

「彼は、白黒フランケン、アイバニーズ デストロイヤー、ギブソン レスポールカスタム ホワイト、シャーベル黒/黄ストライプ、フランケン赤白黒 などをライブで使用してきました。そんな中で、彼はクレイマーとエンドース契約を結ぶことになります。当時の彼は、音はギブソンでルックスその他はフェンダーがいいとして、クレイマーとの共同開発に積極的であったと思われます。まだストラトヘッドをしたペイサーを使っていたので、 80~81年頃と思われます。」

 へえ。

「ネックにはこだわりがあったと思われ、 バナナヘッドのモデルを作る前からクレイマーとは別にネックを作らせていたようです。彼は南米ツアー用にフランケンに似たギターをクレイマーに作ってもらうのですが、それに付けられていたバナナヘッドの1 Pメイプルネックはクレイマーではないと思います。裏側の写真を見るとグリップはかなり太く、 Uシェイプに見えます。いろいろと試行錯誤をしていたようです。」

 へえ。(ちょっと握ってみる)わぁ!なんか違う。

「同じように見えるバナナヘッドがついた クレイマーが登場したのは1984年のPANAMAのPVからでした。しかしこのネックの裏側は明らかに違うグリップをしており、以前のワーモスタイプやシャーベルとも違う一見Cシェイプのようなグリップでした。このネックが非対称グリップだったとわかったのは、ミュージックマンEVHが発表されたインタヴューで、そのモデルの非対称グリップはバナナヘッッドのクレイマーから型取りをしたとあったのです。」

 言われてみれば確かに、あのミュージックマンみたいな左右非対称グリップですね。でもミュージックマンよりなんか太いような感じですけど。

「B,W&Rの1984Specialは、ミュージックマンよりもナット幅とネックエンド幅を広げてあります。というのはクレイマーの当時の仕様に合わせたからです。そしてグリップを非対称にすることによって若干ネック自体が太く感じるかもしれませんが、独特な弾き心地を作り出しています。これまで使って頂いた方のご感想では、自分が急にうまくなったと錯覚するとか、ほかのギターを弾きたくないなどと言って頂いております。」

 ふむふむ。(まだ握っている)確かにこれ、慣れたら弾きやすいかも。な~るほどね~。左右非対称グリップってこの頃からだったんですね~。その後のピーヴィーもそうですよね。小田桐さんはフランケンからクレイマー、ミュージックマン、ピーヴィーって流れで、やっぱりフランケンがお好きなんですか?

「本人はクレイマーからミュージックマン、ピーヴィー、そして自身のブランドへと使用するブランドが変わったわけですが、私はそのどれも大好きです。ミュージックマン以降は本物がきちんと流通しているので、私がレプリカを作る意味もありませんが、それ以前のモデルは本家としての正規販売がなかったことから、誰かが作らないと手に入らないという状況でした。今では本家ブランドからフランケンが発売になったわけですが、誰もが買えるというものではありません。」

 誰かが作らないと手に入らないからってところがカッコいい!キャシャーンがやらねば誰がやる!って感じですね…古いか。 はい…では次、ボディの方を見てみましょう。こっちはコインとか反射板とかついてないし、フロントもないですね。だから訊くことも少ないかな、あ!そうそう、さっきも訊こうと思ったんだけど、フロイドローズの取り付け方はけっこうベタ付けですよね。

「セッティングはボディーに直付けしたいです。そのためにはブリッジプレートの前方を削ってダウン時にボディーに触らないようにしないといけないのです。ファインチューニング用のイタバネを外すことにより、6弦はDチューナーなしでもナットのロックを外すことなく Dチューニングと Eを使えます。80年代から90年代はみんながフロイドローズを使っていたので、面白みはなかったかも知れない。
しかし今は使っている人があまりいなくなった分、新しく聞こえるようです。」

 でもまた最近キテますよね、フロイドローズ。なにげに歴史古いんだな。

「フロイドローズトレモロユニットを彼が使い始めたのは、まだフロイドローズ氏が 1つずつ手作りしていた 1979年のことでした。彼の最初のユニットはローズの 2作目の物で、クロームメッキもしないまま渡したそうです。このユニットをつけた黒 /黄のストラトを79年の来日公演で見たのですが、彼は最初から最後までギターを交換することなくこの一本で通しました。これは、彼のソロタイムなどでトレモロアームを激しく使ってもチューニングが狂わないという画期的な物で、当時は話題騒然 一大ブームとなりました。その後このユニットも大量生産されるようになり、進化して現在の仕様になりました。彼のギターには、ローズ氏自身が手作りしたプロトタイプが付けられていましたが、これには量産品よりも大きいサスティーンブロックがついていて、全体の大きさも量産品とは違っています。」

 そうそう。写真を見ると、でかいのついてますよね。これにはついてないんですか?

「これについても当然試してみましたよ。ブラスの削り出しのものを取り寄せたり、自作したりして。でも、なんかね、これは私の考えなのですが…」

 なんです?

「大きいブロックに変えるとギターが大人しくなる感じなんです。具体的には倍音が押さえられて鳴りも小さくなるというか、軽くブレーキかかってるみたいな。」

 じゃあ良くないじゃないですか。

「普通はね。でも考えてみてください。マーシャルの1959フルアップで直結して、ボディ直付けのリア1発のストラトで爆音で弾くとしたら。」

 怖くて弾けないですね。ウマいヘタがバレバレ…。

「音はかなり派手に暴れちゃうと思うんですよね。実際彼はマーシャルの電圧も押さえていたし。だからこの大きなブロックは低音を出すためとかじゃなく、そんなブレーキの役割で付けられていたんじゃないかと思うんですよ。」

 なるほど!

「彼の上手さはミュートの上手さって良く言われるけど、そういう押さえるとこ押さえるセンスなんかも抜群だったからこそ、ああいう音が出せるんじゃないかなと。」

 普通は鳴らそう、鳴らそうとしますもんね。逆転の発送というかやっぱり天才なんだな~。という訳で、このギターには大きなブロックはついていないと。

「鳴りを重視して作ってますからね、一応(笑)。でも鳴りすぎちゃって困るって方はご相談ください。そんな場合は取り付け致します。」

 これもピックアップは59なんですか?

「彼のクレイマーは、ダンカンJBを付けているのは写真でも明らかです。それは 80年代のJBなので、ギブソンと同じ足の長さをしており、直付けするにも長すぎたので足を曲げて穴を開けなおして付けています。
  現行の JBは足の長さが短くなったので、これでは再現できません。そういうこともあり、B,W&R 5150はダンカン59を使っています。
 近年では彼のこのモデルはPUやネックを交換していますからそれ程強いこだわりは無いのでしょう。」

 さて、いろいろ伺ってきて時間も残り少なくなってきましたが、最後に小田桐さんにとって「このギターを作ろう!」と思ったきっかけってどんなものだったんでしょう?

「私のようにあのサウンドが好きで、彼がいたから自分も本気でギターを弾いてきたという人はたくさんいると思います。彼のプレイを聴いてコピーして学んだことは、今でも役に立っていますし、今後も変わらないでしょう。彼のプレイには、たくさんのジャンルが入っているし、ワザも満載です。音に関しては、ディストーションペダルを使っている人がマーシャルのヴォリュ-ムをいくらあげても全く歪まない、クリーンサウンドと思うのに対し、彼の音は歪んでいるのがおかしいという人が後を絶たないのもある意味凄いです。あのマーシャルの音が実は彼自身の音その物と気づくのには時間がかかりました。」

 そのためにアメリカに渡ったんですよね。

「私は向こうには約9年住んだのですが、日本にいたらありえない経験をたくさんさせてい ただきました。LAという土地柄からか、いわゆる有名人、ギタリストはたくさん見ましたし、ライブも行きました。もちろん彼のライブも何度もみましたし、私の当時の相棒(一緒にバンドをやっていたべーシスト)が自身の仕事で本人宅へインタヴューに何回か行って来たり、地元の人たちからアマチュア時代の彼らの話を聞いたり、それはそれは大きな事から小さな事までさまざまな話が聞けました。  

いろんな人と知り合う中で、今となってはとても残念なのが 日本人ルシアーとしてがんばっていた坂下さんが亡くなったことです。彼とはかなり仲良くさせてもらって、ギターを安く売ってもらっ たり、一緒にギターショウへ行ったり、彼の作業場に遊びに行って見させてもらったり、おうちにお邪魔したことも何度かありました。何があったのかはわかりませんが、とても大切なギター製作者が亡くなったという、本当に悲しくて残念な事が起こってしまいました。  
 
LAでの日々は、ここで全部を語り切ることはできませんが、そんな思い出のひとつずつを大切に、そんな気持ちを込めてギターを作っています。」

 今日は本当にありがとうございました。今度もっといろいろ話を聞かせてください!

 

終わりに

 取材を終えて、まず思ったのは「あ~楽しかったな~」ということでした。ここまで読んでくださった方であれば、もうこれ以上何も語らなくともビルダー小田桐氏の人柄と込められた思いはもう十二分にご理解頂けたかと思います。そのこだわりの深さは尋常ではなく、「そこかい!」と思わず突っ込みたくなる部分も多々あるように見えながらも実は、エレキギターのあるべき姿という点においてしっかりとした軸を持っており、逆に我々の方が如何に不確かな情報に振り回されていたかということを知らされる思いでした。単なる物真似レベルのレプリカではなく、オリジナルが目指したこと、目指したであろうことだけをしっかりと追いつめていくという真摯な姿勢は目を見張らされるものがありました。意味のある部分においてこだわり、意味のない部分にはこだわらないというスピリットにこだわる、こうした矛盾めいた姿勢がいわゆるエレキギターの面白さそのものを表しているように思えてなりません。

 これをお読み頂いて「なるほど」と思った方。次は是非、ご自分の手に取ってお試しになってみてください。そして何かを感じて頂ければ本特集も浮かばれます。

※当ページでご紹介させて頂いております各モデルは、アーティストのイメージに基づいて制作されたもので、シグネチャーモデルではございません。

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