GIBSON 1956 LES PAUL

 

 言わずもがな、この楽器が存在しなければ現代の音楽は生まれていないと言っても過言では無い、エレクトリック・ギターの代名詞「ギブソン・レス・ポール」。


 1952年に誕生して以来、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、デュアン・オールマン、マイク・ブルームフィールド、ゲイリー・ムーア、ランディー・ローズ、スラッシュ、松本孝弘等など、枚挙を厭わない数の伝説のミュージシャン達が愛用し、現代においても不動の人気と憧れを集め続けています。


 発売以来、仕様変更や一時発売中止等を重ねる事で年代によって特徴がございますが、今回は発売当初の希少なゴールド・トップ・レス・ポールに焦点を絞ってご紹介させて頂きます。見ているだけでもその存在感に圧倒される逸品をじっくりとご鑑賞下さい。

1956 Gibson Les Paul


 P-90を搭載したレスポールの完成形とも云えるのが、この’56年製。バー・ブリッジ仕様の’54年製もマニアに人気なアイテムですが、オクターヴやチューニングの精度に問題もあり、チューン”O”マチック・サドルを導入した’56年製はプレイアビリティに富んだ機種として人気を集める。シングル・コイルながらもギブソンならではの甘くウォーミーなサウンドを奏でるP-90ピックアップ。存在感のあるヌケの良いトーンも大きな魅力です。

 ヘッドの突板にはHollywood(柊)、ロゴには白蝶貝を使用。

 ボディバックは例外無くマホガニーワンピースボディ。ネック裏もボディバックもダークブラウンに仕上げられている。

 ボディトップのメイプル材はマット・ゴールド塗装で潰されている為正確には解りませんが、通常は2~3ピース、多い物では6ピースのメイプル材から造られている。ゴールドのカラーが若干緑がかって見えるのは当時の塗装はブロンズパウダーをラッカー塗料に混ぜて塗布している為、塗料のブロンズが酸化して深みのあるゴールドトップのカラーリングを生み出している。

 ヘッドの角度は1952年の発売からの17度。ギブソン社のネックの木取りは、あえて木目を傾けた方法で木取りがされており、これにより折れやすいヘッドからナット裏部分までの木目が真っ直ぐになる事で強度が稼げる方式。その他ネック部分は木目が細かく切れている為、水分の飛散が早まり環境に馴染むのも早い利点もある。
 この木取りの方法は1枚の角材から取れるネックの本数が少ない為コスト的に非常に不利で贅沢な仕様ですが、当時のギブソン社の楽器造りの姿勢が伺える。

 ギブソン・レスポールはセットネック構造を採用しておりヘッド側からトラスロッドを調整する。トラスロッドは1920年代からギブソン社が採用しており、元来の用途であるネックの調整の他に木取りの為に柔らかくなったネックの強度を保つ役目も果たしている。

 ゴールドのハットノブ。1955年から1960年頃までレスポールモデルにも採用されているノブ。

 1955年に変更され、その後のスタンダードとなるチューン-O-マチック・ブリッジとスタッド・ブリッジ/テールピースのコンビネーションにP-90ピックアップ。チューン-O-マチック・ブリッジはテッド・マッカーティ考案で、それまでレスポールに使用されていた、やはりテッド考案のスタッド・ブリッジ/テールピースをそのままテールピースに採用する事で強いテンションが稼げる構造。パテントの出願は1952年7月5日、認可は1956年4月3日で、先に使用されていたスタッド・ブリッジ/テールピース(出願1953年1月21日、認可1955年8月2日)より半年先に開発されていたブリッジ。元々はホロウボディ・ギター用に出願されたもので、各弦のサドルを調整出来る為、細やかなオクターヴ・ピッチの調整を可能にしている。材質はダイキャスト製のベースにブラスのサドルを使用。

 コンデンサーには『スプラグ社』製のバンブルビー。ポットは『CTS社』製。

 トグルスイッチは『スイッチクラフト社』製。

 フィンガーボードには、世界的な銘木で現在ワシントン条約で絶滅危惧種に指定され、輸出入が禁止されているブラジリアン・ローズウッドを採用。一般的なローズウッドに比べ重硬な材で、柔らかいネックを補強すると共に芯のしっかりしたアタックも生み出す。

 ペグは『クルーソン社』製の320VP。ペグにクルーソンの文字が入らない通称”ノーライン”。ペグ・ボタンの形状がシャフトに近く一つのコブが付いている事から”1コブ”とも呼ばれている。

 セットネックのジョイントはピックアップの半分以上奥まで差し込まれている、ディープ・インサート・ジョイントを採用。当然この当時にディープ・インサート・ジョイントの名称は無く、これが当然の仕様であった。ジョイントの接地面を広く深くとる事で強度を稼ぐと共に、ネックの振動とボディの振動をダイレクトにサウンドに反映出来る。現在では当たり前に用いられる方式だが、この当時よりシステムが確立していた事でレスポール楽器自体の完成度の高さが伺い知れる。

 ピックアップには1940年に登場したシングルピックアップP-90を搭載。2つのアルニコ・マグネットがポールピースを挟み込む構造で、コイルはプラスティック・ボビンに巻かれている。ワイヤーはAWGの#42を採用、ターン数は約10,000ターン巻かれており、ファットで粘りのあるサウンドが特徴。カヴァーはネジ止め部分がピックアップ横にある従来のドックイヤー・タイプでは無く、2・3弦の間と4・5弦の間にネジ止め部分がある、ソープバー・タイプ。ドックイヤーもソープバーも中身は同じ構造。ピックアップ下の木工技術も丁寧に仕上げられており、ここでもギブソン社の木工技術の高さが伺える。

 1952年から1960年までのソリッド・ギターのシリアルは最初の一桁が西暦の最後の桁で、続く4から5桁が続き番号となっています。この個体は「612851」なので、1956年製の12,851本目に製作されたレスポールと判別出来る。出荷は1万本を越えレスポールのセールスの好調さが解る。