サムライ・ベース 其の二 - TC楽器 - TCGAKKI

 Japan Vintageとして評価を受ける、時代を駆け抜けた誉れ高い国産ベースを「サムライ」と形容し、1960年代以降のニッポンクオリティーを崇高に維持した国産ブランドを"サムライベース"と呼称致しています。国産ベースの完成度は1970年代から1980年代にかけて最も飛躍し、多数の"コピー"モデルが製作されていくことになります。当コラムでは、"オリジナル"と"コピー"の優越は言及致しません。

 最近書籍に、日本人のモノ造り感を表する興味深いものが発売されました。"日本のもの造り哲学"とのタイトルなるものですが大まかな概要は、生産や工程の「設計思想」を表すアーキテクチャには2つの基本タイプが有るというものです。
 製品を生産するのにその製品にのみ使用される専用部品を作る「擦り合わせ型」と既製の部品を使って作る「寄せ集め型」による分類です。日本の製造業は「擦り合わせ型」に"過剰に"傾倒し、その為儲けが薄いという原因があるそうです。顧客の要求が厳しい分、モノ造りの能力は鍛えられるものの、利益が少ないという仕組みです。

 反面、アメリカは「寄せ集め=モジュラー型」の製品が得意との指摘も納得です。国民性が大きく反映される大変興味深い仮説です。

 国産エレクトリック楽器のクオリティーを世界レベルまでに押し上げた'70年代以降の濃密な歳月がまさに上述の内容を証明するものとなっています。アメリカで電球が発明された1879年の5年後には日本国内でも白熱電球が取り入れられ、1890年には国内での自給にも成功します。日米間の制作競争は此頃より2国間に良い競争相手として構築されています。

 弦楽器の原型として国内では、西アジアにルーツを持つ琵琶が最も古く7~8世紀と伝えられています。上陸後は伴奏用楽器として独自の発達を遂げていきます。更に辿ること1世紀頃には西アジア圏において弦楽器の祖形があったことも伝えら、"ユーラシア(EURO)(ASIA)大陸"を起点にシルクロードを通り伝承されたとの事です。平家の歌集には9世紀に琵琶法師が登場し、12世紀頃までには国内の歌集"平家物語"と共に平家琵琶が確立されています。
 一方、1500年代中期頃より三味線が伝来し、1597年に製作された"淀"が最古のモデルとして現存しています。胴と棹と弦部分の絹糸からおおよそ構成され、棹にいたっては継ぎ目を用いた"継ぎ棹"がとりいれられ移動面が考慮されています。弦楽器をひもで担ぎ演奏する形態はすでに此頃には確立されています。
1970年代の急速な国産エレクトリック・インストゥルメンタルの発展は、上述の通り歴史に裏付けられた確かなノウハウが背景にあることは間違いありません。木部の胴体にピックアップというマイクが取り付けられたこのスタイルがアメリカより伝来し、広く日本国内に普及するようになったのも頷けます。

 サムライベースの原点とも言えるコピーモデルは、オリジナルの模倣に過ぎないと捉えられがちですが、細部にわたって追跡してきた事によって製作の精度を上げることに成功しています。 ある侍は「敵のしきたりは奇妙だが、お互いの敵を知ることは大切だ」と説いた一説に日本の国民性が表れており、国産エレクトリックベースの黎明期においては、 例えば先述の"取り込みの早さ"に一層磨きが掛かって"擦り合わせ型"が加速していくことで独自の質感を高め、今では後生にまで語られるジャパン・ヴィンテージとして評価熱の覚め遣らぬ現状となっています。一貫して 富士弦楽器製造、マツモク工業 、Tokai楽器製造を始めとするファクトリーでは躍進の背景に、管理された部分作業での 各セクションの高技術力を掲げています。 

 

 この'70年代~'80年代頃国内には厳しい競争を超えてきた現在も最前線で牽引するメーカーがコピーモデルをラインナップに発表してきます。メーカー製の大型量産化による質の低下はよくある話ですが、各パーツを組み合わせて最終型となるため規格の正確さが求められ、非常に細やかな仕上がりとなるため、このころのモデルは特に日本の技術力の高さを誇示した"Japan Vintage"として扱われています。人手を多く必要とするファクトリーでは、精度が要求される部分に高性能機械を、木材の接触部分や楽器への接触部分には熟練のベテラン職人による調整が施され、精度が高められている訳です。木材は全て徹底した管理の下、含水率が下げられ、木の安定・強度・耐久性が調整されます。

 一方環境面からみると信州ー長野、静岡には、国内楽器製造工場が密集致しています。ベースを構成する木材は、吸湿・放湿性に富み自身で水分量を調整し周りの環境に適応するため、一年を通して湿度の安定と水や森など自然環境が豊かな土地が好まれるそうです。水の郷と称される楽器工場の拠点松本市では湧き水が豊かで、明治時代には天皇への御前水として使われています。この地域周辺は、どのエリアにいても車で30分も走れば緑の生い茂る森に入る程の素晴らしい環境も備わっています。一方、静岡県浜松周辺は年間平均気温16度前後(2011年現在)で四季が在る割に寒暖の差が少ない場所です。とりわけピアノの街として有名ですが両都市では自然環境に恵まれ、必然的に音楽都市として栄えています。

発売当時定価:80,000円

GRECO  JB-800 SUPER REAL

 '80年代に入り発表されたSUPER REALシリーズは、オリジナルのモデルを正確に把握し作られた完璧を目指したコピーモデルです。海外ブランドへの憧れがやがて国内メーカーによっても生産されだす、正に日本のメーカーが世界的なクオリティを持ってして認知されていく過程で重要な通過点を誇示した比類なき傑作。

ボディ:アルダー単板 ネック:メイプル 指板 :ローズウッド

発売当時定価:60,000円

GRECO  FVB-600

 Gibson '71年仕様を元に製作されたFVBメダリオンモデルは、オリジナルラインナップに存在しないモデルを実現した'74~'77年までの僅かな期間のみ生産された正に垂涎、マホガニーサウンドの秀逸なFlying V Bassコピーモデルです。

ボディ:マホガニー ネック:マホガニー 指板:ローズウッド

発売当時定価:37,000円

YAMAHA  SB-2

 '66~'67年まで発売されたグループサウンズ全盛時期に製造された記念すべきYAMAHA エレクトリックベースの初号機。マイナーチェンジを経て'82年にその幕を下ろす事になります。YAMAHAの聖地ともいえるノスタルジック昭和テイストを感じさせる原点のモデル。

ボディ:カツラ ネック:メイプル 指板 : ローズウッド 重量:約4kg

発売当時定価:120,000円

YAMAHA  Broad Bass 1200

 ボディシェイプの変革から長らく支えてきた歴史の重みを感じさせるSBシリーズから、新たにラインナップに加わったBroad Bassシリーズは、SBシリーズの持つ一貫したJazz Bassをイメージさせる方向とは別にする趣旨で70年代後期頃より発売されたプレシジョンベースサウンド指向のBBシリーズ。SBベースに代わってYAMAHAの代表作として歴史を刻んでいきます。

ボディ:アルダー ネック:メイプル/マホガニースルーネック 

指板:ローズウッド  重量:約4.5kg

発売当時定価:110,000円(Pearl White)

Ibanez  MC924

 Ibanezを飛躍的に世界の名のあるブランドへと押し上げることになったMusician Series。'70年代後半のクロスオーヴァーなスタイルにマッチさせるべき誕生し、当時のミュージシャンの意向が大いに取り入れられ、色褪せることなく不朽の秀逸なモデルとして語り継がれています。独自のEQトーンシステムは、アクティブ・サウンドのその後のあり方にも指針を示すこととなります。

 コントロールは、その後アクティブコントロールのみとなり'90年代初頭まで生産され、'95年にLegend Seriesとしてごく短期間復刻されることになります。

ボディ:アッシュ(ウイング部分) ネック:メイプル/マホガニー5Ply スルーネック

指板:ローズウッド

発売当時定価:150,000円

Aria Pro II  SB-R150

 国内ファクトリーの当時最高峰の1つ、松本市の名工マツモク工業と荒井貿易の強力なタッグから生まれたSuper Bassはその後ファミリーラインナップを増やしていくことになりますが、'83~'84年までの短期間ラインナップされたシリーズ最上位モデルSB-R150。

ボディ:ゼブラウッド/チェスナット ネック:メイプル 指板:ローズウッド
重量:約5.4kg

発売当時定価:80,000円

TOKAI  PB-80

 "HARD PUNCHER"といえばTokai楽器の代表機。Fender社の'60年代仕様を各年度にスポットを当て、限りなく再現された拘りが同社の興味深いところです。価格設定と質感で国内自給を高めた功績は大きく、現代工学とクラフトワークを取り入れたロジカルな製造工程を取り入れた自社ファクトリーも有名です。

ボディ:アルダー ネック:メイプル 指板 ローズウッド

発売当時定価:98,000円

Fender Japan PB62-98

 富士弦楽器製造制作のJVシリアル期。Fender質感、音質は日本で自給できることを実証したJapan Vintage。USAパーツを搭載し国内で製造するスタイルはその後幾多の国内メーカーも踏襲する雛形となります。

ボディ:アルダー ネック:メイプル 指板:ローズウッド

発売当時定価:110,000円

FERNANDES MHB-110

 人気の高いFERNANDES石ロゴ期のAlembic series1サーキットの完全再現仕様MHBモデルは、マテリアルこそ相違があるものの回路のみの完全再現という試みからコストダウンに成功した例です。そしてこちらも生産期間の短いことからレアなモデルとなっています。

ボディ:セン ネック:メイプル 指板:ローズウッド 重量:約4kg 

 サムライベースコラムでは、大国アメリカへのロマンから、やがて国内屈指のサムライベースへの成長過程を描写致しました。
揺るがない格好良さ、それこそサムライベースの醍醐味だと私は思います。こんな楽器もあるのか、から手に取ってみてサウンドの魅力を実感して頂けましたら幸いです。

 THE 中古楽器屋では、サムライヴィンテージを今後も豊富に取り揃えていきますので楽器を売りたい方、買いたい方に足を運んでいただけますようにさらなる充実を目指してまいりますのでご来店心よりお待ちいたしています。
長々とお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。

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